泥の夢
「神戸六甲ミーツ・アート beyond 2024」六甲山観光賞受賞。
六甲山で採取した土や植物を用いてつくった泥舟。
「船頭多くして船山に上り全ては巡る」という故事成語をユーモアある形で捉え直し、その続きとして、海ではなく山を登り、ついには六甲おろしの風に吹かれて空へと飛んでいきそうな不思議な情景を描き出すことをめざしました。泥舟が徐々に崩れ自然に還っていく様子は、自然の循環に生きた縄文時代や、「六甲変動」が起こる以前六甲山が海だった時の記憶を感じさせます。
本作は季節の移り変わりや周辺の環境によって風化していくことを前提につくりました。
アート作品は永く残ることを願い形にすることが多い中で、本作はかけたり崩れたり、もはや跡形もなくなるかもしれない、途中経過や最終形態が予測することができないという点で実践的かつ実験的な作品です。
縄文時代には、「縄文海進」と呼ばれる水面が5m高く平均気温が2度上がる現象など多くの困難に直面しており、現代と同等に激動の時代でした。関西地方はより一層厳しい自然環境のため旅や移動を繰り返して生活していたと言われています。
その中でも、六甲山周辺は縄文遺跡が見つかっており、生活の拠点としても信仰の対象としても六甲山はシンボリックな存在だったのだと考えます。
本作の風化が余白となって、こうして自然に循環し消えていった人々の生活や記憶へ思いを馳せる装置として機能することを願います。